税理士が紐解く「仮想通貨の確定申告基礎」

税理士
つづいて、仮想通貨の利益計算方法を具体例を中心にその概要を説明したいと思います。

 

仮想通貨の課税関係とは

仮想通貨の課税関係については、様々な議論・憶測がなされていましたが、一応の終止符を打ったのが平成29年9月に国税庁が発表した「ビットコインを使用することにより利益が生じた場合の課税関係」という見解(タックスアンサー)です。

 

ビットコインは、物品の購入等に使用できるものですが、このビットコインを使用することで生じた利益は、所得税の課税対象となります。このビットコインを使用することにより生じる損益(邦貨又は外貨との相対的な関係により認識される損益)は、事業所得等の各種所得の基因となる行為に付随して生じる場合を除き、原則として、雑所得に区分されます。
(国税庁ホームページ・タックスアンサーNO.1524 より)

ここで、「仮想通貨の確定申告(上巻)」でも触れた通り、仮想通貨による利益は、原則として「雑所得」となります。この見解にご理解いただける方は多いかと思いますが、事業所得で申告できませんかというご質問も税理士によくいただきます。

事業所得の場合、事業が赤字になった場合に他の所得と損益通算できるという制度や損失の繰越控除の制度もあるため、税務上のメリットを受けられやすいと言えます。

ただし、事業所得に相当するケースとしては、個人事業主等が事業用資産としてビットコインなどを決済に利用する場合などが考えられます。したがって、一般の給与所得者(サラリーマン、公務員の方など)の場合には、多くのケースで「雑所得」として申告することになると考えられます。

 

 

課税関係のケーススタディ

次に、仮想通貨の所得計算にあたって具体的なケーススタディを見ていきましょう。はじめに、仮想通貨の確定申告にあたり、具体的な計算方法について国税庁から「仮想通貨に関する所得の計算方法等について(情報)」が発表されています。わずかA4用紙の6ページ程度のものですが、具体的な事例を示すものとして参考になるかと思いますのでダウンロードしてみてください。

ここからはこちらの国税庁の発表に基づき、具体的な計算を見ていきたいと思います。

はじめに、仮想通貨にかかる税金の計算方法の基本的な考え方について一言で述べると、「モノの売買をイメージ」するとわかりやすいかと思います。モノを買ったときと同様に、仮想通貨を購入して保有しているだけでは、課税対象にはなりません。つまり、保有している仮想通貨を売却、使用、交換した時に課税対象となるのです。

そして、基本的な考え方として、売却額から、購入額と経費を差し引いて利益を計算していきます。例えば、パソコンを10万円で購入してきて、他人に11万円で売却した場合、利益は1万円となります。これと同じようなイメージで仮想通貨の売買も考えてみると、理解しやすくなります。

ここからは、売却、使用、交換の3つのケースを中心に事例を交えて見ていきたいと思います。

 

仮想通貨を売却した場合

はじめに、取引所で仮想通貨を売却したことを考えてみましょう。比較的わかりやすいケースかと思いますが、ご自身が持っている仮想通貨を売却した場合、その売却価額と仮想通貨の取得価額との差額が所得となります。

下記の事例を見てみましょう。3月9日に200万円で4ビットコインを購入しました。この時1ビットコインを50万円で購入したことになります。その後、5月20日に売却しますが、売却の時点で、はじめて税金が発生する課税関係が生ずることになります。(売却せずに、そのまま保有しているだけでは、このビットコインの購入という取引だけでは、税金はかからないということになります。)

つまり、この売却という行為を行うまでは課税関係は生じず、ビットコインを売却して初めて課税が生じることになります。そして、5月20日に11万円で売却することになりますが、まずはこの11万円という数字を押えてください。そして、この売却額11万円から、売却した0.2ビットコインの原価を差し引きます。つまり、3月9日に入手したビットコインの取得原価に相当する50万円×0.2を11万円から差し引いた1万円が所得してカウントされます。

売却した事例

なお、売却価額から取得原価を差し引きましたが、その他経費として差し引けるものとしては、例えば、仮想通貨取引のための情報収集のために購入した本代金やセミナーへの参加費については、取引に必要なものであれば経費として計上することができます。領収書などはしっかりと保管しておきましょう。

 

仮想通貨を使用した場合

仮想通貨を家電量販店などで使用した場合を考えてみましょう。最近では、ウェブ上のサービスだけでなく、家電量販店、飲食店、美容院などの実店舗まで、ますます利用できる範囲が広がりつつあります。

仮想通貨を家電量販店で利用したケースについて課税所得を考えてみましょう。家電製品をビットコインで購買した場合、家電製品の価格と仮想通貨の取得原価の差額が課税対象となります。

つまり、仮想通貨を店舗で使用した場合にも、税金が発生する可能性があるという点に注意が必要です。

具体例で申しますと、3月9日に入手したビットコインで5月20日に商品購入した場合、3月9日から5月20日までのビットコインの値上がり益に対して、課税関係が生じます。

この場合、家電製品を購入するために、ビットコインを売却したのと同じようなイメージでとらえてみてもよいかもしれません。

仮想通貨

 

仮想通貨を交換した場合

注意したいのが、この交換のケースです。当税理士事務所でのご相談内容でも多かったのですが、仮想通貨を売却せずに、交換だけしていれば税金はかからないのではないかといった誤解があります。仮想通貨を交換しただけでも、税金はかかりえるので、しっかりと押えておきましょう。

例えば、ビットコインをイーサリアムに交換した場合を考えてみましょう。4ビットコインを200万円で購入した後に、1ビットコインを時価60万円のイーサリアムに交換した場合、60万円から1ビットコインの取得原価50万円を控除した10万円が所得として考えます。

交換

 

仮想通貨が分裂(ハードフォーク)した場合

平成29年8月にビットコインとビットコインキャッシュが分裂し、10月にビットコインゴールドがハードフォークしています。ご存知の通り、ハードフォークすると、新しい通貨が否応なく所有することになりますが、確定申告時に、このハードフォークした事実をどのように処理したら良いか不安になるかもしれません。

この場合の税金の取扱いについては、ハードフォークにより取得した時点では課税されない点に注意が必要です。つまり、平成29年8月1日に1ビットコインを保有していた方は、自動的にビットコインキャッシュを獲得することができましたが、この時点では、価値を有していないこととして考えます。

ハードフォークした仮想通貨は、取得時点では課税されず、仮想通貨を売却した時点で、その取得価額をゼロとして利益を計算することが必要です。

仮想通貨 ハードフォーク

 

次回の「確定申告のための仮想通貨の税金(下巻)」では、具体的な確定申告書の記載方法を説明します。